Share

第29話 毒薬飲みまくり

last update Last Updated: 2025-04-04 19:04:09

「マジックアロー!」

 網の目に指先を通して魔法を使えば、マジックアローの矢は網の向こう側に生まれた。これなら網を傷つけずに済む。

 MPが続く限り魔法を唱えて、MPが尽きたら剣先でチマチマと虫を潰した。

 衛兵たちも魔法が使える人は似たような戦法を取っている。

 槍でチクチクと潰している人もいる。

 部屋から出した元寄生者は、体に虫がついていないかよく確認してから網の外に出した。

 そうした地道な作業を繰り返すこと、約二時間。

「や、やった……。これで全部だ」

 全員の虫の吐き出しが終わり、隔離室にいた虫も全滅させることができた。

 虫増殖の元凶、ボサボサ頭のジェイクも同じ方法で助けることができた。

 ただしジェイクの腹の虫は育ちすぎていて、毒薬で殺すことはできたが吐き出すには大きすぎた。

 無理もない、こいつは一番最初に寄生されていたからな。

 それで彼は医者に運ばれていった。

 開腹手術で胃の中から取り出すんだそうだ。ひぇ。

 それでも毒薬で殺せたからまだいいが、もしそれすら無理なくらいにデカくなっていたらどうなっていたんだろう。

 腹を食い破って出てくるとか……? 想像するだけで気分が悪くなってくるぞ。やめやめ。

 王国騎士団は全て片付いた日の午後にやって来た。

 ものものしい雰囲気だったが、全部解決した後だと聞いて拍子抜けしている。

「寄生型の魔物に毒薬が有効だと知っている者がいたのだな」

 そう言って前に出たのは、国王一家の後ろに控えていた白フードの騎士だった。騎士団長だって話だったか。

「我らも対策を取ってきたが、無駄になったとは」

 ちらりと俺を見る。

「……いや、責めているわけではないのだ。素早く正しい対処に感謝する。対処が半日遅れれば、それだけ被害が拡大した恐れがあ

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第30話 カルマとは

     鉱山町の事件が解決された。 報奨金で懐が温まった俺は、ほくほくしながら冒険者ギルドに立ち寄っていた。 また町から町を移動して、配達依頼をこなしてく予定だ。 冒険者ギルドの掲示板をチェックしたら、手頃な配達依頼を発見した。「お。港町への配達依頼が出てる」 かつて拠点にしていた港町カーティスだが、しばらく戻っていない。 久しぶりに顔を出すのもいいだろう。 そう考えた俺は配達のアイテムを受け取って、クマ吾郎といっしょに町を出発した。 そうして二日ほど歩いたときのことである。『警告! 警告! 請負中の依頼は、あと一日で期限を迎えます』「え?」 荷物袋からそんな音声が流れた。 何事かと確かめてみると、声の発生源は冒険者ギルドの依頼票である。 いやしかし、あと一日ってどういうことだ。 鉱山町で引き受けた配達依頼は、十分に期限に余裕があるのに。「あっ」 そこで俺は気付いた。 警告を発した依頼票は、王都パルティアで引き受けたものだということに。 内容はボサボサ頭ことジェイクへの魔法書配達依頼。「しまった、それどころじゃなかったから、配達品を渡すのをすっかり忘れていた」 あと一日だって? もっと早く警告してくれよ。 鉱山町を出てから二日歩いてしまったが、急いで夜通し走れば一日で何とか町まで戻れるかもしれない。なんとかしよう。「あっ……」 しかし俺はもっと悪いことに気づいた。 配達品として預かったマジックアローの魔法書は、昨日勉強として読んでしまったのだ。 あれが配達品だとすっかり忘れていて、普通に手持ちの魔法書と一緒に読んでしまった。 魔法書は数回読めば魔力を失って崩れて消えてしまう。 つまり悪意はなかったとはいえ、俺は配達品をネコババしたことになる!「まじかよ。勘弁してくれよ」 俺は頭を抱えた。 クマ吾郎が心配そうに顔を舐めてくれる。

    Last Updated : 2025-04-05
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第31話 カルマとは

     開腹手術で虫を取り出したジェイクは、思ったよりも元気そうだった。 病室のベッドの上で起き上がって本を読んでいる。まさか魔法書……と思ったが、普通の本のようだった。やれやれ。「やあ、ユウさん。その節はお世話になりました。おかげさまで助かりました」 笑顔で出迎えてくれる彼に罪悪感を覚える。「ジェイク。とても言いにくいんだが、きみ宛の配達品をなくしてしまった……」 ネコババしたとはさすがに言えない。 ジェイクが顔を曇らせる。「僕としては構いませんが、冒険者ギルドの規定だと配達品の紛失はペナルティが重かったはずです」「そ、そっか」「今回はこんな事件がありましたから。事情を話せば考慮してもらえるかも」「だといいな」 確かに町中を巻き込んだ大事件の余波である。情状酌量の余地はあると思いたい。 しかし俺の希望的観測は打ち砕かれた。 冒険者ギルドの受付のおばさんは、冷たく言い放ったのだ。「どんな事情があっても配達依頼の失敗は失敗です。しかも期限切れだけでなく配達品の紛失。カルマ、マイナス20ですね」「カルマ」 カルマというと、依頼を成功させるごとに少しずつ上っていった謎のステータスだ。 お金目当てで依頼を引き受けてきちんと達成していたので、いつの間にか上限の30まで上がっていた。 そこから一気にマイナス20。きついといえばきついが、そもそもカルマって何だ?「カルマは一体どういうステータスなんですか?」「あなたの身に宿る因果応報を数値で表したものですよ」 よく分からん。「もう少し詳しく」 俺が言うと、おばさんはため息をついた。「要するに王国においての善人、もしくは悪人の度合いです。依頼を成功させて人の役に立てばプラス。失敗して迷惑をかければマイナス。他にも盗みや殺人、脱税などの犯罪行為を行えば大きくマイナス」「ははあ…&helli

    Last Updated : 2025-04-06
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第32話 護衛依頼

     久々に港町カーティスへ行った俺は、ちょっとした里帰り気分を味わっていた。 前によく散歩に付き合ったザリオじいさんに挨拶して、旅の話を聞かせたり。 極貧時代に皿洗いのバイトで通った酒場に、今度は客として行ってみたり。 故郷に錦を飾るってほどじゃあないが、少しは余裕が出た姿を皆に見せられて誇らしい。 冒険者ギルドに行くと、受付のおっさんが声をかけてくれた。「よう、ユウ。お前もいっぱしになったじゃねえか。レベルも10を超えたし、そろそろ新しい依頼も解禁だな」「新しい依頼なんてあったのか?」 俺が聞けば、おっさんはうなずいた。「おうよ。駆け出しのひよっこには任せられない仕事な。例えば護衛依頼なんかがそうだ」 見せてくれた依頼票には「南東の農村まで親戚を護衛してほしい」との内容が書いてあった。「これは別に狙われるような人間じゃないが、冒険者でもない奴が一人で旅をするのはキツイからな」「なるほど、道中は弱い魔物や野生動物が出るもんな」「そうそう。で、他にもちょいとヤバい話もある。デカい金額を移送する銀行員みたいに狙われやすい話や、裏社会に敵のいる奴が襲撃から守ってほしいと頼んでくる話もある」 裏社会は本当にヤバいな。あまり関わりたくない。 ただ、護衛依頼は配達依頼よりも一回り以上依頼料が高かった。成功させればなかなかにオイシイ。 行先に配達依頼も出ていたら、ダブルでオイシイ。「よし、やってみるよ」 俺は護衛依頼を受けることにした。 先ほど見せてもらった南東の農村への依頼票を受け取る。 冒険者ギルドを出て依頼主の家を訪ねた。「依頼を受けてくれてありがとう。この人の護衛をお願いね」「チーッス」 家から出てきたのは、だいぶチャラい感じの兄ちゃんである。「オレ、農村なんて田舎行きたくないケドー、おふくろが働けってウルサイんでー、農業目指すみたいな?」 おっと、いい年こいて無職の人か。 まあ俺には関係ない。きちんと護衛

    Last Updated : 2025-04-07
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第33話 犯罪者だ!

    「ガウ……」 シャーマンを始末したクマ吾郎が困った顔をしている。 俺もどうしていいか分からない。 火が周囲に延焼せずに消えたのだけが救いか……? と。『護衛対象の死亡を確認しました。護衛依頼は失敗です。ペナルティ』 依頼票が声を発した。 ペナルティの声と同時に、軽いめまいがした。 この感覚は前にも経験がある。カルマが大きく減ったときだ。 ステータスを開いてみたら、カルマが-25まで減っていた。マイナスの概念があったのか。「どうしよう……」 とりあえずこいつを埋葬してやって、農村に向かうしかないだろう。 彼が死んでしまったと到着先に伝えないといけない。 ついでに、農村まで届けものをする配達依頼もある。 俺は穴を掘って黒焦げ死体を埋めた。 土を盛って棒を刺し、軽く手を合わせておく。 こんなことなら、問答無用でクマ吾郎の背中にくくりつけてやればよかった。 後悔してももう遅いとは、このことだった。 目的地の農村に足を踏み入れると、いつもと雰囲気が違うのに気づいた。 普段は村人たちはみんなフレンドリーで、挨拶をしてくれる。 この農村は何度も来ているから、村人や各店の店主、衛兵とも顔見知りだ。 それなのに。「こんにちは。ひさしぶりです」「……ッ」 俺が挨拶をすると、村人のおばさんは顔をゆがめてその場を立ち去ってしまった。 周囲を見渡しても、誰も俺と目を合わせようとしない。よそよそしいを通り越してはっきりと避けられている、もっと言えば嫌われていると感じた。「なんで?」「ハフゥ?」 俺とクマ吾郎は顔を見合わせて首をかしげる。

    Last Updated : 2025-04-08
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第34話 犯罪者だ!

     最近の俺は多少は強くなったので、野外でサバイバルしながら生きていくのはできると思う。 森の木の実を取ったり魔物や野生動物の肉を狩ったりで、食べ物は何とかなる。クマ吾郎という頼りになる相棒もいることだしな。 けれど一生お尋ね者で町に入れない生活なんて嫌だった。 町に入れなければベッドで寝られない。風呂も入れない。人と会話することもない。 俺は人間なんだぞ。そんなの嫌に決まってるだろ。 もう一度よく考えてみよう。どこかに突破口はないか。「そういえば、襲いかかってきたのは衛兵だけだったな。村人は嫌な顔をするだけで」 衛兵の目さえかいくぐれば、町で活動ができるか? 帽子をかぶるとか髪を染めるとか、軽く変装すれば村人もごまかせるかもしれないし。「そうだ、衛兵がいない町があったっけ」 ここから南下した先にある治安の悪い町である。 そこはならず者が我が物顔でうろうろしていて、衛兵が一人もいない。 一度配達で訪れたとき、あまりのガラの悪さにさっさと退散したのだった。「あの町に行ってみよう。行ってみるしかない」 南に向かって歩くこと約四日。 俺とクマ吾郎は、ならず者の町ディソラムに到着した。 道中で農村への配達依頼の期限が切れたおかげで、俺のカルマはさらに下がった。 今ではマイナス35である。 なお護衛対象の兄ちゃんが死んだとき、カルマは一気にマイナス25になった。 その後、彼の死体を埋葬したらカルマはマイナス20に上昇した。 どうやら依頼成功だけでなく、一般的に善行とされる行為を行ってもカルマは上がるようだ。 で、マイナス20だったカルマが配達依頼失敗でさらに下がり、マイナス35になったというわけである。 カルマは上がる時はちょっとずつなのに、下がる時はドカッと下がる。もはやどうしようもない。 カルマが大幅に下がったせいか、俺の体は全体的に負のオーラ(?)に包まれている。 身もふた

    Last Updated : 2025-04-09
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第35話 ならず者の町

     ならず者の町ディソラムで暮らし始めて、一ヶ月ほどが経過した。  季節はいつのまにかすっかり秋である。 昔、港町で極貧生活を送っていたときのように、小さい依頼を中心にこなしながら暮らしている。  ちょっとしたおつかいやら、店の手伝いのバイトやら、下水掃除やらだ。  あのときはお金のためだったが、今はカルマのため。  いつまで経っても世知辛い世の中だな。 他にも道端で転んだ老人を助けたり、迷子の道案内をしたりと善行も頑張っている。  ただしこの町はならず者が多い。  転んだ老人と思ったら盗人だったり、子供であってもかっぱらいをしたりと油断できない。 おかげで観察力が磨かれたような気がする。 手助けをするにしてもよく注意を払って、俺に被害が出ないようにするわけだ。何とも嫌な話だが、身を守るためである。 それでも地道な活動のかいがあって、カルマはマイナス14まで持ち直した。  体に走る負のオーラがだいぶ軽減されてきたので、もう少しで犯罪者ではなくなると信じたい。「お疲れさん。今日はもういいよ」「どうも」 今日もアイテム屋の倉庫整理の依頼を終えて、俺は依頼料を受け取った。  店主が言う。「ユウは真面目に働くから、いつも助かっている。だが、この町で真面目は必ずしも美徳じゃないぞ。いつもお互いがお互いをだまそうとしている町だからな」「用心はしていますよ。この前も宿屋に強盗が入って身ぐるみ剥がれそうになったけど、撃退したし」 撃退したのは主にクマ吾郎なんだが、まぁ嘘は言っていない。  俺の答えに店主はニヤリと笑った。「へえ、それなりに腕も立つんだな。じゃあ盗賊ギルドからスカウトが来るかもよ」「盗賊ギルドか……」 盗賊ギルドはこの町を取り仕切っている組織だ。いわゆる裏社会のギルドで、他の町にもネットワークがあるらしい。  この町では誰もが盗賊ギルドの存在を知っている。  でも実際に誰がメンバーで、どんな組織なのかは謎に包まれているのだ。

    Last Updated : 2025-04-10
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第36話 盗賊ギルド

     翌日の夜。 俺はバルトに指定された時間に酒場に来ていた。 店に入るので、クマ吾郎は宿屋で待機してもらっている。 酒場はすでに閉店していたが、入り口のドアは開いていた。 中に入ってみるとバルトが待っている。一人でテーブル席に座って何やらトランプのカードをもてあそんでいた。 俺が来たのを見て、彼はカードをいじる手を止めた。「やあ、来たねユウ。返事はどうかな」「……盗賊ギルドに入る」 俺の答えに彼はにっこりと笑った。 昨日今日とよく考えての結果だった。 裏社会に関わりを持ちたくなんかないが、鍵開けや罠感知のスキルは他では覚えられない。 いくつもの町を回ってきたが、それらのスキルは一度も見たことがないのだ。 騙されているのかも、とは思った。 けど逆に俺を騙すメリットなどあるだろうか。 俺はやっと一人前になった程度の冒険者で、お金だって大して持っていない。 森の民の出自を隠して活動する以外は、ただのありふれた人間である。 こんな奴を騙しても別にいいことないだろ。 騙した挙げ句奴隷として売り払うとか、そんなことも考えた。 でもそれなら、その辺の浮浪児でも捕まえたほうが早いじゃないか。 俺の見た目はややイケメン寄りのフツメンだ。(自分でイケメン寄りとか言ってスマン)見た目以外も特技があるわけじゃないし。 やっぱりどう考えても騙すほどのメリットがない。 強いて言うなら森の民の出身くらいか。 でもなあ、森の民は優秀な魔力を持つらしいがそれ以外で特筆するものはないはずなんだ。魔力が優秀といってもバカ高いわけじゃなく、常識の範囲内だし。 森の民は今となっては数が少ない貴重な種族。人体実験でもされるのだろうか。 だが、迫害を受ける話は聞いても人体実験とかの噂は聞いたこともない。そこまで恐れていては生きていけないっての。 いくら考えても分からなかったので、思い切って進むことにしたのだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず

    Last Updated : 2025-04-11
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第37話 盗賊ギルド

    「ギルドのノルマだと?」 やはり裏があったのか? 思わずバルトを睨んでしまった。 けれどバルトは軽く肩をすくめて手を振ってみせた。「あはは、そんなに警戒しないでくれ。ノルマといってもそこまで難しいものではないよ。ギルド員のランクに応じて宝石を納入してほしいんだ」 この世界の宝石はピンキリで、クズ石に近いものから貴族が買い求めるような御大層なものまでいろいろある。 そして宝石は魔法の触媒にもなる。 つまり宝飾品だけでなく需要が高い実用品でもあるのだ。 需要が高いために換金性は高い。宝石は軽いので、重たい金貨や銀貨を持ち運びするより便利だ。 金持ちの商人や高位の冒険者なんかは、財産を宝石で持っていると聞いたことがある。「ユウはダンジョンに行くだろう。最初はそこで手に入る程度のクズ石をいくつかで十分だよ」 ダンジョンのボスを倒すと宝箱を落とすが、この箱の中には高確率で宝石が入っている。 俺が通える程度の初心者向けダンジョンでは、宝箱の中味もそこまでレアじゃない。宝石はクズ石に毛が生えた程度のものが多かった。 俺は触媒が必要な魔法は使えない。今までは使い道がなかったので、売って金策していたけど……。「ノルマを破るとどうなるんだ?」「ギルドを追放処分になるよ」 バルトは笑顔のままで言った。「等級が高いギルド員が追放されれば、メンツや情報保持の問題で暗殺者が放たれることもあるが。新入りであれば、まあ、身ぐるみ剥がそうとする強盗に何度か襲われる程度じゃないかな。逃げ切れればそれはそれでいいよ。実力を示すのは大事だからね」 強盗! 暗殺者!? なにそれ怖! 俺は思わず一歩後ずさって、頑張って腹に力を入れ直した。さらに質問する。「だが俺は、この町にずっといるつもりはない。いずれ町を出たら、ノルマの宝石が納められない場合もあるだろう。それでも追放処分になるのか?」「前もって脱退手続きをしてくれれば、特に追手は出ない。ま、脱退時にいくらかの『手数料』はもら

    Last Updated : 2025-04-12

Latest chapter

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第60話 特殊スキル

     表示されたステータスに妙なものを見つけて、俺は思わず叫んだ。「え! なんだこの『特殊スキル、統率(小)』って!」 メダルで習得した覚えはないし、それっぽい行動も特に覚えはない。 思わず声を上げると、エリーゼも不思議そうに言った。「でも、何となく味方がパワーアップしそうな名前ですね。統率」「確かに」 いつの間にこんなの生えてたんだろうか。 俺たちは首をかしげながらも、分からなかったので保留となった。 統率のインパクトがすごすぎて忘れていたが、ついに魅力が上がったのも地味に嬉しい。 エリーゼが教えてくれた歌唱スキルのおかげだと思う。もう音痴とは言わせない。 後日、王都で色々と調べた結果。 統率は多くの仲間を引き連れたリーダーに与えられるスキルだと判明した。 仲間の数と忠誠心によって会得する。 効果は仲間にさまざまなボーナスを与えるのだという。 俺は今年になって奴隷をたくさん買った。 奴隷というより仲間に近い感覚で彼らに接していた。 そりゃあそんなに甘やかすつもりはなかったけど、彼らはあくまで人間。仕事仲間だ。その思いは変わらない。 だからみんなも俺に心を開いてくれた……と思う。 それが忠誠心という形で表れて、統率スキルになったのか。 確認されている統率スキルの効果はさまざまだが、その中に「仲間の潜在能力を引き出し、成長を促す」というのがあった。 ここ最近のみんなの急激な成長はそのおかげだろう。 そういえば、俺自身の成長よりもクマ吾郎パワーアップのほうが上なんだよな。 統率スキルの影響だったのか。「そんなことってあるんだなぁ」 思わずつぶやくと、「ガウガウ!」 クマ吾郎が得意げな顔で鳴いた。 まるで「分かってたもんね!」とでも言いたそうだ。 そん

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第59話 特殊スキル

     季節は夏を過ぎて秋になり、やがて冬に差し掛かる。 それぞれの役割を忠実に果たし続けた俺とクマ吾郎、それに奴隷たちは、努力に見合った成果を手に入れていた。 俺とクマ吾郎は戦闘能力がかなり上がった。 もう一流冒険者としてどこへ行っても恥ずかしくない実力だ。「俺は一流。クマ吾郎は超一流かもな」「ガウ!」 奴隷たちはおのおののスキルを磨いた。 錬金術のレナのポーションは、店で売っているポーションより一回り高い性能を発揮する。 中級レベルまでのダンジョンであれば十分に通用する性能だ。場合によってはボスにも使える。 宝石加工のバドじいさんのアクセサリーは、冒険で大きな効果を出している。 このクラスのアクセサリーは店では売っていないし、ダンジョンのドロップを狙うにも難しい。 ある程度の数をいつも揃えているこの店はとても評判がいい。 エリーゼも裁縫の腕を上げて、みんなの服を作るようになった。 ただ、彼女は店の経営と二足のわらじ。他の奴隷に比べれば裁縫スキルはゆっくりとした成長になっている。 イザクは農業スキルを上げて、見事に畑を耕した。 家の裏手はよく整えられた畑が広がっている。 秋まきの野菜が植えられて、もう少しで収穫できるという。楽しみだ。 子供のエミルと女戦士のルクレツィアは、そこまで変化はないな。 エミルはまだまだ幼い。 ルクレツィアは元からけっこう強かった上に、まだうちに来てからそんなに経ってないし。「それにしても、みんなすごい成長ぶりだよなぁ」 ダンジョンから家に帰った俺は、レナとバドじいさんの新作を見ながら言った。「世の中に錬金術師や宝石加工師は、たくさんいると思うんだけど。レナやじいさんは修行を始めてまだ半年そこらだろ。それが標準より良い性能のものを作るんだから、びっくりだよ」「そうですね……。実はわたしも、ちょっと不思議で。やっぱりご主人様の人徳でしょうか?」

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第58話 お店

     家人らの担当が決まったので、俺とクマ吾郎の坑道も決める。 俺とクマ吾郎は今まで通りダンジョンの攻略に精を出すことにした。 これまでは金策メインだったが、これからは素材採集をもっと積極的にやるつもりだ。 どんどん作ってがんがんスキルを鍛えてほしい。楽しみだ。 鍛冶スキルは習得したものの、実際に手を出すのはもう少し先になる。 というのも、鍛冶はハンマーやら金床やら溶鉱炉やら、設備が必要になるからだ。 今の家じゃ狭くて置き場がない。 いずれ鍛冶場を作らないといけないな。 まあ、奴隷たちのスキルがもっと上がって店の売上が安定してからの話だ。 そうして回り始めた新しい生活は、順調なスタートを切った。 俺とクマ吾郎がダンジョンで採集してきた素材は、レナが錬金術でポーションに、バドじいさんが宝石加工で護符やアクセサリーにしてくれる。 どちらもまだそんなに品質は高くない。 が、冒険者が多く行き来する場所に店を出したのが当たりだった。 ダンジョン攻略の前後に立ち寄る冒険者が予想以上に多くて、ポーション類はいつも売り切れ。 護符とアクセサリーも上々の売上を記録している。 護符とかアクセサリーは魔法の力を込めて作るんだが、壊れやすい。半消耗品なのだ。 作れば作るほど売れるとあって、レナとバドじいさんのやる気がアップした。 毎日たくさんの生産をこなして、腕もぐんぐん上がっている。 そんなある日、俺がダンジョンから帰るとエリーゼが話しかけてきた。「ご主人様。盗賊ギルドのバルトさんから手紙が届いています」「バルトから?」 久々に聞いた名前に首をかしげながら、手紙を開いた。『親愛なるユウへ。 きみが店を持ったこと、たいそう繁盛している話を聞いたよ。 もうならず者の町に戻る気はないのかな。 盗賊ギルドの宝石

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第57話 お店

     店を出す場所はもう決めてある。 王都パルティアから街道を東に二日程度進んだ場所だ。 王都が近いせいで人の往来が活発。 加えて、その周辺はダンジョンがよく出現する。 王都に近くはあるが、徒歩二日の距離は至近ってほどでもない。 補給のための買い物したり戦利品を売り払うために王都まで行くにはちょっと面倒で、しかし人の行き来は多い。 なので冒険者の客の需要があると見込んだのだ。 幸いなことに周辺に店はない。絶妙な位置だった。 俺が作りたいのはダンジョン攻略に役立つアイテムや武具だ。 生産スキルの練習がてら余ったものを売るには、冒険者相手が一番いい。 中級以上の冒険者はそれなりにお金を持っている。金払いのいい客になってくれるだろう。「よし。建物はこんなもんだな」 夏の青空の下、できたての小屋の前で俺は腕組みをする。 王都の大工に頼んで建ててもらった家だ。 ほとんど小屋レベルの小ささだが、街道に面した部分が店になっている造りである。 ついに俺も家持ちになった。小さいながら我が家だ! 家はリビング・ダイニング、キッチンの他にベッドルームが一部屋、それから店のスペースしかない。 狭いのでベッドルームに三段ベッドを設置してみた。 はみ出た人はリビングで寝てもらおう。 男女の過ちとかは、まあ、奴隷契約があるので起こらんだろ。 六人と一匹の大所帯としては小さな家だ。 リビング・ダイニングもこじんまりしたもので、食卓テーブルを置いたらスペースに余裕がない。 狭すぎると文句を言われるかと思ったが、この小さな家は好評だった。「わたしたちのお家ができるなんて、素敵です!」 エリーゼが言えば、「いい家だ。雨風がしのげて、雨漏りもしない」 農業スキルのイザクが続ける。「わたくしどもにはもったいないですよ」「ここに住むの? 怖い人、来ない?」 錬金スキルのレナと少年のエミル

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第56話 新しい仲間

     断ろうと思ったが、その子供と目が合ってしまった。 年齢にそぐわない全てを諦めきったような目。ろくに食事をもらっていないと分かる、ガリガリの体。 髪の色は金髪だと思うんだが、薄汚れてぱさぱさなのでよく分からない有り様だった。 今日買った三人の奴隷は、拠点で生産しながら店番をしてもらう予定だ。 ダンジョンに連れて行くつもりはないので、危険はない。 それなら――「分かった。その子も買うよ」「毎度あり!」 奴隷商人のホクホクした顔がムカつくが、俺は黙って代金を支払った。 四人合わせて金貨六枚なり。 全財産の金貨二十二枚から出して、残りは十六枚。まだ大丈夫。 魔法契約で俺を主人に設定する。 農業スキル持ちのササナ人はイザク。 錬金術スキルの女性はレナ。 宝石加工のじいさんはバド。 少年はエミルという名前だった。「みんな、これからよろしくな」 声をかけても反応が鈍い。 エリーゼがとりなすように言った。「皆さん、ご主人様は優しい方です。どうか安心して仕事に励んでくださいね」 同じ奴隷のエリーゼの言葉は、少しは響いたようだ。 彼らはもそもそと挨拶をしてくれた。「反抗的な態度を取ったら、容赦なく鞭打ちをおすすめします。鞭も売っていますよ。銀貨二枚」 奴隷商人がそんなことを言っているが、無視だ無視。 俺は奴隷たちを引き連れて、市場を出た。 夜になるまでまだ間があったので、服屋に行って奴隷たちの服を買った。 奴隷制は嫌いだが、必要以上に甘やかすつもりはない。 これからしっかり働いてもらわないとな。 でも、不潔でボロボロの服は良くないだろ。 一年前までボロばっかり着ていた俺が言うんだ、間違いない。 次に宿屋の部屋を取った。 そこで桶と湯を借りて、それぞれ体を洗わせた。不潔は病気の元だからな。 さっぱりした奴隷たちに新しい服を着せる。 これ

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第55話 新しい仲間

     その奴隷を見てみると、浅黒い肌に大柄な体をしていた。骨太な体格だが今は痩せてしまっている。 パルティア人とちょっと毛色の違う感じがする。経歴書には「ササナ人」とある。 ササナ国は確か、パルティアの南にある小国だったな。 確かに農業スキル持ちの割に、お値段が安い。 農業は農奴として人気のスキル。普通ならば引く手あまたのはずだ。この値段では買えないと思う。 反抗的ということで割引中なのだろう。 あるいは、態度が良くなくてどこかの農園を追い出されたとか?「反抗的でも別にいいよ。仕事だけきちんとやってもらえれば、文句はない」 俺が言うと、ササナ人奴隷はちょっと目を見開いた。 まあ、仕事をサボってばかりだとか他の奴隷たちを虐めるだとか、問題行動があまりにひどかったらその時に対応を考えよう。 彼をキープしてもらって、次の人の吟味に入る。 生産スキルはたくさんがあるが、特に欲しいのは鍛冶と錬金術、宝石加工だ。 鍛冶は武具を作るスキル。 良い武具はダンジョン攻略の要だからな。 武具は店売りのものでは性能が物足りない。かといってダンジョンでドロップを狙うのはあまりに運任せすぎる。 ある程度の性能を狙っていく場合、鍛冶スキルは必須になるだろう。 で、錬金術はポーションを作るスキル。 混乱やマヒのデバフ系ポーション、それに回復系のポーションはダンジョン攻略に必須である。 宝石加工は護符やアクセサリーを作る。これも武具に準じる装備品だ。 しかも壊れやすいので半消耗品でもある。しっかり確保したい。 次点で魔法書製作。 魔法書は魔法屋で買うかダンジョンで拾うかしか入手経路がない。 で、魔法屋の品揃えもそのときによってまちまちなのだ。 安定してよく使う魔法の魔法書が手に入るなら助かる。 ただ、俺の得意とする魔法は初歩のマジックアローや戦歌、光の盾など。 これらは店でもダンジョンでも比較的入手

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第54話 新しい仲間

     そうして向かった奴隷市場は、相変わらず胸くそ悪い場所だった。 やっぱり俺は奴隷制が嫌いだよ。 だいたい、どうして人間を道具としてお金で売買するのが許されるのか。 この世界、この国は理不尽が多いが、奴隷制度はその最たるものだと思う。 鎖に繋がれ、手かせをはめられた奴隷たちが狭い檻に押し込められている。 向こうではオークションをやっているらしく、台の上に立った奴隷たちが自分の名前と特技を書いた札を持っていた。 オークションを後ろの方から見ていたら、奴隷商人に話しかけられた。 愛想のいい笑顔を浮かべているが、同時に警戒心も見て取れる。 エリーゼを買ったのはならず者の町だった。 あそこじゃ盗賊ギルドのバルトが付き添いに来てくれたおかげで、待遇が良かった。 俺はここじゃ見慣れない顔だろうからな。「お客さん、見ない顔ですね。今日はどんな商品をお探しで?」 人間を商品と言ってはばからない。俺はイラッとしたが表には出さずに言った。「生産スキルが得意な人を探している。戦闘はできなくてかまわない」「それでしたら……」 奴隷商人はオークションから離れて、建物の一つに俺たちを招き入れた。 何人かの奴隷が引き出されてくる。 比較的若い人からお年寄りまで、さまざまだった。 そうして紹介された奴隷は確かに生産スキルを持っていた。 いつぞやのならず者の町の奴隷商人よりも優秀だな。あいつ話聞いてなかったからな。「エリーゼ。どの人がいいと思う?」 エリーゼに聞くと、その場にいた全員が意外そうな顔をした。 え、なに?「お客様はわざわざ奴隷に意見を聞くのですか。これはお優しい」 奴隷商人が嫌味な口調で言う。 そういうことかよ。俺は言い返した。「これから買う奴隷は彼女の仕事仲間になるんだ。相性も大事だろ」 本当は奴隷だって人間だ、お金で売り買いするなど間違っていると言いた

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第53話 出店計画

     おっさんの言葉に俺は頭を巡らせた。 店を出す場所はよく考える必要がある。  まず、町の中はあまり良くない。すでに別の店があって競合してしまうから。 既にある店のほうが経営や仕入れのノウハウが豊富だろう。固定客もいるだろうし。 素人の俺がいきなり参入しても不利になってしまうと思う。 じゃあ店を出すなら町の外か。  街道沿いで人の多い場所や、ダンジョンがよく生まれる地域で冒険者相手に商売するのが良さそうだ。 もちろん、いい場所は既に店が出ている。だが現役冒険者である俺の視点から見れば、まだまだ穴場があるはずだ。「分かった。ありがとう」「おうよ。店をやるのか?」「まだ計画段階だけどね」 そんな話をして、俺は冒険者ギルドを出た。「どうでしたか?」 外で待機していたエリーゼが尋ねてくる。「王都で出店の許可をもらえるんだってさ。場所を考えながら王都まで行こうか」 王都にはこの国で一番大きな奴隷市場もある。人材の調達はそこですればいい。  この一年で配達やダンジョン探しをしてあちこち歩き回ったおかげで、この国の地理はだいたい把握している。  店を出すのにいい場所も、いくつか目星がついていた。 王都までの道すがら、手頃なダンジョンがあったのでいくつか攻略した。  寄り道をしたせいで少し時間を食ってしまい、王都に到着する頃には季節は初夏になっていた。 せっかくここまで来たので、直近の税金を納めておく。もう脱税騒ぎはごめんだからな。  今度はヴァリスに呼び出されることもない。  お役所に行って新規出店について案内を聞いた。  担当のお兄さんが言う。「店を出すには許可証が必要です。こちらの申請用紙に記入の上、お金を添付してください。金貨三枚です」「なかなかお高いですね」 金貨一枚あれば、一人暮

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第52話 生産スキル

    「違う違う、エリーゼが嫌いという意味じゃない! 奴隷制度そのものに反対ってことだよ。だってお金で人を売ったり買ったりするなんて間違っている。エリーゼだって子供の頃は開拓村の自由民だったんだよな。それが奴隷になってしまって、嫌だっただろう」「わたしが奴隷になったのは、親に売られたからです。わたしを売ったお金で家族は冬を生き延びました。仕方ないことです」 いきなりヘビィな話が飛び出した。 分かってはいたが、この世界で日本の常識も良心も通じやしない。 けれど割り切るのは嫌なんだ。 前世の話をして理解してもらえるわけはないので、説明に苦労した。 けれどエリーゼを嫌っているわけではないこと、奴隷制度そのものに疑問を持っていることは分かってくれたらしい。「ご主人様は優しいですね」 と微笑まれてしまった。「けど、この国に奴隷制があるのはどうしようもないですよ。だったら奴隷を買って、わたしみたいに優しくしてあげて、生きる力を育ててあげてください」 この国の人間で今なお奴隷身分の彼女の言葉には、説得力がある。「……分かった。ただ、養う人数が増えればお金や食べ物の問題も出る。少し考えさせてくれ」「はい」 エリーゼの言葉で、俺は業務拡大(?)の決心をした。 今の俺の実力は、上級冒険者といって差し支えない。 中堅クラスのダンジョン攻略は問題なく進めて、ボスから得た装備品も充実した。 クマ吾郎といっしょに効率よく戦闘を繰り返したため、短期間で強くなれたのだ。 当然実入りも良くなって、貯金はかなり増えた。 だが、何人もの奴隷を買って彼らを養うとなったらどうだろう。 生活費を稼ぐためにカツカツになってしまっては意味がない。 奴隷の皆さんにしっかり働いてもらって、さらに利益を上げなければ。 そのためにはどんな人材を買って、どんな仕事を割り当てるか熟考の必要があ

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status